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選手インタビュー

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大岩 義明-Yoshiaki OIWA- 選手 【前編】

どれだけのことをやってきたか、感じるチャンスだった

2008年の北京以来3大会連続でオリンピック出場をつづける大岩選手。日本総合馬術界をエースとして牽引する一方、ドイツを拠点とし、馬術の本場ヨーロッパでも活躍しています。世界最高峰とも称されるバドミントン・ホーストライアルズをはじめとする大会での成果や2016年のリオオリンピック、現在のパートナー馬について伺いました。

すべての総合馬術選手が憧れる大会

イギリスで開催されるバドミントン・ホーストライアルズは、総合馬術最高峰の大会にして、世界から15万人もの観客が集まるイギリス屈指の大イベントです。純粋に世界ランキング上位の選手しか出場できない点から「オリンピック以上」とも評されるこの大会で、大岩選手は2005年の初出場時に11位となり、現地で大きな注目を集めました。

バドミントンは、テニスでいうところのウィンブルドンに近い位置付けで、総合馬術を行うすべての選手が憧れる、舞台に立てること自体が名誉となる特別な大会です。
初出場した2005年当時はオリンピックもアジア大会も未経験で、がむしゃらにやっていた時期でした。だからチャレンジでしたね、バドミントンでどこまで行けるのだろうと。また、当時乗っていた馬が高齢で、世界最高峰の大会を花道に引退させたいという思いもありました。
最終的には11位と上位に食い込むことができ、2日目のクロスカントリーが終わった時点では3位でした。おまけに最終日の障害終盤までは暫定1位で、それがずっとアナウンスされていたため「誰だこの日本人は」と注目され、HORSE & HOUND※などの雑誌で紹介していただいたり、現地ではかなり話題になりました。日本の知人からは「バドミントンなんてやってないで馬に乗れ」と怒られましたが(笑)

※ イギリスで有名な馬術雑誌

世界最高峰の大会で結果を残すこと

バドミントンは出場資格・競技の難易度の高さから、過去、日本人選手は1人出場しただけで完走者はいませんでした。特に困難なのが総合の花形・2日目のクロスカントリーで、出場選手の半数近くがゴールを切ることすらできず敗退します。2017年、大岩選手はその中で8位という好成績を残しました。

出場前はトップ15に入れば満足、奇跡が起こればトップ10くらいの気持ちでした。それほど強豪の揃う大会ですし、競技場の広さといい、高度なコントロールが求められる障害物といい、クロスカントリーの難易度が非常に高いんです。だから人馬ともに完走できる自信が無いと挑戦も無謀になってしまう。今回はリオに出場したザ・デュークオブカヴァンという、バドミントンにふさわしいハートの強い馬にめぐり合えたことで12年ぶりの挑戦を決めました。
僕の中でクロスカントリーという競技は、コースデザイナーが作ったクエスチョンに対して、自分の馬のタイプやコンビネーションなどを踏まえ、作戦を立ててクリアしていくイメージです。特にバドミントンは、入っていくときの角度、スピード、踏み切り、アングルすべてが合わないと、最初はよくても次の障害物が絶対に飛べないように作られているんです。他にも着地場所が水たまりだったり地面がデコボコだったりと、息を抜くところはひとつもありません。
2005年当時はまだ若手の自覚がある中での挑戦でしたが、今回は経験も意識も違いました。この12年でどれだけのことをやってきたのか、それを感じるチャンスと考え、楽しみでした。結果として、クロスカントリーは馬がきっちり仕事してくれたこともあり、ほぼイメージどおりの走行ができ、馬場も障害もおおむね力を出し切ることができたので、8位という成績にはとても満足しています。

馬術王国メジャータイトルの価値

バドミントンから1カ月後、同じくイギリスで開催されたCCI 3スター Bramham※では優勝を飾った大岩選手。コンビを組んだキャレは3スターの長距離ははじめての出場で、「最後まで持つかどうか、チャレンジでした」と振り返ります。

※各大会の競技レベルは「スター」であらわされ、数字が大きいほど上位の大会となる。

CCI 3スターのクロスカントリーは距離が長く、中でもBramhamは勾配が激しいのが特徴です。アップダウンを繰り返すコースの中に、上り下りなど地形を生かした障害が用意され耐久力が求められます。スピードも出しにくく、今回、制限時間内にゴールできたのは1組だけという厳しいコースでした。
コンビを組んだキャレは走るのが得意な血統ではなく、長距離を本気で走るのもはじめてでした。ですが予想を超えてよく走ってくれて、今後も戦っていける手ごたえを感じましたね。とはいえ1位になる想定はしておらず、うまくいけば1桁に入れるかなというイメージでした。ヨーロッパで全選手に勝つというのは本当に難しいことなので。
優勝した際は、想像以上に選手や地元の人たちからほめていただきました。Bramhamというタイトルの偉大さを、僕なんかよりよほど知っているんですね。観客も埋めつくすほど大勢いて、その中で国旗を揚げ、君が代が流れるというのは、やはりうれしかったですね。
また、Bramhamには日本の田中選手も出場していて、クロスカントリーは全体で2位という速さでした※。最近は会うたびに成長を感じていたのですが、この難しいコースでこの成績は本物の証だと思います。同じ日本チームとしてうれしいですし、大きな戦力ですよね。

※田中選手は2頭で出場し、最終的に4位と13位という好成績。

リオデジャネイロの裏話

2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、戦後の日本総合馬術界で最高の20位となった大岩選手。しかしその裏では、かなりの綱渡りに直前の判断、慎重な試合運びと、アクシデントとのギリギリの戦いを強いられていました。

リオに出場したデュークは、その前から脚に不安があり、十分にトレーニングできなかったんです。一時はキャレでの出走も考えましたが、大舞台で戦う経験が不足していた。馬術連盟ともギリギリまで相談して、デュークで行くことが決まったのは大会直前でした。
そのため、フィットネスワークやスタミナ作りは満足にできず、リオでははっきりいって走れなかった。それどころか欲張って走っていたら最終日に出ることすらできなかったと思います。というのも、クロスカントリー後のホースインスペクション※で一度引っかかっているんです。その後、障害の本番前に再検査を受けて、そこでもジャッジが相当悩んだ末のパスだったので、本気で追って(走って)いたら、おそらく通っていませんでした。
元気だったらもっと上を狙えたかもしれませんが、20位というのはコンディションが悪い中で僕たちペアの出せるベストでした。それどころか、あの状態で最後まで走りきったデュークは本当にすごいことをやってくれたと思います。

※馬が競技へ参加できるコンディションにあるかどうかのチェック(馬体検査)。ドレッサージュ(馬場)前とクロスカントリー後に行われ、不合格の場合は次の競技に出場できない。

東京へ挑む3頭の馬

大岩選手が現在コンビを組んでいる馬は3頭。すべて2014年以降にそろえた馬で、それ以前はロンドンオリンピックでの引退を考え、新しい馬を用意していませんでした。そこから再び馬を集めリオ出場を決意したきっかけは、2013年の東京オリンピック開催決定の知らせでした。

元々はロンドンで引退しようと考えており、その後のことはあまり考えていませんでした。ですが2013年にオリンピックの東京開催が決まったことで続行を決め、リオへの準備もそこからはじめました。そのとき用意した馬がデュークで、リオの選考開始が2014年、乗りはじめたのが同年の春だったので、本当にギリギリでした。
キャレは、万が一デュークがケガをした場合のリザーブホースとして、また将来的にデュークと同じくらい活躍できるセンスのある若い馬として、リオ出場がほぼ決まるというタイミングで所属会社に用意してもらいました。もう1頭はシャンテールという名前で、注意力があり馬場で点数のつく馬です。クロスカントリーをはじめたのが遅かったので、今は自信をつけるために小さいクラスをコンスタントに走っています。
以前はもっと若い馬もいたのですが、今は東京のことだけを考えて、その可能性がある馬だけをそろえてトレーニングしています。もうそういう時期にさしかかっていると思っていますから。

大岩 義明-Yoshiaki OIWA- (おおいわ よしあき)

大岩 義明-Yoshiaki OIWA- (おおいわ よしあき)

明治大学卒業。株式会社nittoh所属。ナショナルチーム選手。08年から16年までオリンピック3回連続出場。06年ドーハアジア大会 個人金・団体銀メダル。10年広州アジア大会 個人銅・団体金メダル。17年 バドミントン・ホーストライアルズ 8位、CCI 3スター Bramham 優勝。
Twitter:https://twitter.com/yoshiakioiwa